<7月23日>(火)
〇バイデン氏が出馬を辞退して、ハリス副大統領の出馬に注目が集まると、アメリカの雰囲気はずいぶん変わりましたな。トランプ氏が元検察長官と対峙することを恐れている、なんていう政治マンガがいっぱい出来ている。ほかにもこれとかこれとか。政治の世界で三日は長い、という典型です。
〇もちろん彼女がこのまま順調に行く保証はなくて、11月5日の投票日までは山あり谷ありということになるでしょう。それでもとにかく民主党支持者が今はホッとしていて、「バイデンさん、よくぞ決断してくれました」というモードになっている。いやもう、もうちょっと早く決めてくれた方がよかったんですけどね。
〇今後の注目は民主党の重鎮たちの動きである。クリントン夫妻は、早々とハリス副大統領の挑戦を支持。特にヒラリーさんの気持ちはよくわかる。トランプを打倒するのは、できれば女性であってほしい。私、セコンド役を務めてもいいですよ、何しろトランプさんとは骨肉の戦いを演じましたからね、てな感じでありましょう。
〇ギャビン・ニューサムやグレチェン・ホイットマーという有力州知事が、ハリス支持に回るのも自然な流れです。トランプが勝てば、彼らは2028年の最有力ランナーになれる。ここで躊躇して評判を下げるのはよろしくありません。
〇問題はオバマ夫妻が沈黙を保っていること。バラク・オバマは「バイデンさんお疲れ様」のツィートを発信したが、ハリス支持とは言っていない。きっとビミョーな問題があるからでしょう。しかしまあ、こんな風に党の重鎮が発言力を競い合っている様子は、わが国自民党の総裁選びとやや似ています。
〇とはいうものの、民主党支持者の間には「ブローカード・コンベンション」(裏取引ありの党大会)に対する嫌悪感が強い。ちゃんと競争しろよ、「コンテステッド・コンベンション」でなければいけない、という思いは強い。
〇ワシ的には、そんなのは全然OKであって、候補者選びはもっと融通無碍であっていい。そういう意味では、自民党総裁選挙はとっても「オトナの世界」であると思います。問題は変に潔癖な民主党支持者が、そういうのに我慢できないことが問題でありまして、こうなると今年、キチンと予備選挙をやっていなかったことが祟るかもしれません。
<7月24日>(水)
〇なんなんだこれは。カーマラ・ハリスがトランプさんを圧倒しかねない勢いである。先週時点で、「ほぼトラ」とか「確トラ」と言っていた人たちは反省してください。そんな生易しい戦いじゃないんです。最後は必ず僅差の戦いになるんだから。だから「まじトラ」くらいがちょうどいいんですって。
〇お陰さまで今日の日経平均は439円安。先週、トランプラリーで上げた分をキレイに吐き出しました。不肖かんべえの持ち株も、1日で約50万円も下げました。勘弁してくれえ〜。同様な方は少なくないものと思われます。
〇ところで今日はこの漫画が面白いっす。トランプさんがおもちゃ屋さんにやってきて、「ヴァンス人形」を取り出して、「30日以内だから返品できるだろ?」ってやつ。そんなのダメに決まっているじゃないですかあ。彼を指名した7月15日時点では、もう何があっても勝てる、と思っていたんでしょうなあ。
〇そういう意味では、この週末のバイデンさんの不出馬宣言が思わぬリバウンド効果を呼んだ。しかるにバイデンさんが諦めてくれたのは、7月17日に3度目のコロナ感染したことと、周囲が持ち込んだ絶望的なデータと、「7月26日にはパリ・オリンピックが始まってしまう!」という締め切りのお陰である。日本時間の明日午前9時には、バイデンさんはホワイトハウスから正式な不出馬宣言を行う予定だが、これ以上遅くはできなかったのだ。
〇とはいうものの、先週までの民主党関係者は「バイデンはなかなか選挙戦を止めてくれないし、変えるにしてもハリスしかいないし、2024年の民主党は『1回休み』かなあ」と嘆いていたのである。今週起きているのは、一種のポジティブサプライズであって、永続するものではないと思います。
〇おそらく投票日までには民主党内のどこかから、「あんなのがアメリカ初の女性大統領でいいのかあ!」という非難が聞こえてくるはずである。ハリスさん自身も、かならずどこかでドジを踏むでしょうし。そういうアップダウンレースがこれからも続くと考えておく方がいいです。それにしても今月は、アメリカ大統領選挙の歴史に残るどんでん返しの連続であります。
<7月25日>(木)
〇バイデンさんが正式に撤退宣言をしたことで、2024年大統領選挙は「元職対新人」というちょっと珍しいパターンとなりました。たぶん史上初めでなのではないかなあ。普通は「現職対新人」「新人対新人」のどちらかなんですけどね。
〇しかもその新人は、現役の副大統領である。現役の副大統領が大統領になることは意外と難しい。第2次大戦後の歴史でいうと、「事故による昇格」は3人もいて、ハリー・トルーマン(33代)、リンドン・ジョンソン(36代)、ジェラルド・フォード(38代)である。それぞれ大統領の「任期中の死亡」「暗殺」「辞任」が原因であった
〇現役の副大統領がそのまま選挙に挑んで勝った、という例はひとりしかいない。ジョージ・H・W・ブッシュ(41代)=ブッシュパパである。失敗例は3件あって、1960年のリチャード・ニクソン、1968年のヒューバート・ハンフリー、2000年のアル・ゴアである。つまり副大統領がそのまま大統領選に挑戦すると、1勝3敗となって意外と確率が低いのである。
〇その代わり、副大統領経験者が後に大統領選挙に勝って就任したという例は2例あって、それがリチャード・ニクソン(37代)とほかならぬジョー・バイデン(46代)である。いずれも副大統領を2期8年も務めている。
〇カーマラ・ハリスの場合はどうか。副大統領の勝率が低いのは、その時の大統領が長く務めていて、政権交代が起きる確率が高まっているからであろう。1960年のニクソンはその前の2期8年がアイゼンハワー(34代)の共和党政権であり、1968年のハンフリーはその前がJFK&ジョンソンで2期8年の民主党政権であり、2000年のゴアはその前がクリントン政権(42代)の2期8年の民主党政権であった。
〇要するに3期連続で同じ政党がホワイトハウスを制するのは、とっても難しいのである。たまたま1988年選挙では、共和党が3期連続で勝ってブッシュパパが大統領になれた。これは1980年代が特殊な時代であって、レーガン大統領(40代)の下で新保守主義が広がったことと、1984年選挙でウォルター・モンデール(彼もカーター政権の副大統領であった)が、あまりにもコテンパンに負けた余波があったからだろう。
〇ということで、カーマラ・ハリスさんの勝率はどうかというと、「副大統領の挑戦は意外と分が悪い」という面では心細い感があるが、「民主党政権はまだ4年で、飽きられるほど長くはなっていない」と考えれば、十分に勝ち目はある、ということになるだろう。
〇まあね、どっちが勝つにしろ僅差の戦いになると思いますよ。2000年以降の大統領選挙は全部そうなんだもん。そういう風に考えるのが良いと思います。
<7月26日>(金)
〇さすがに米大統領選挙も疲れてきました。そろそろ五輪モードに切り替えましょうよ。と言っても、開会式は午前1時からなんですって。うーむ、起きていられそうにない。
〇それでも五輪が始まってしまうと、世間の雰囲気は変わってくるのであります。まして今年は無観客じゃないし、堂々と応援していいオリンピックである。それにしても3年前の東京五輪は、あれはとっても苦しい大会でありましたなあ。
〇とりあえず柔道の阿部兄妹が気になるぞ。まあ、いいじゃないですか、日本中が一気に「にわか」ファンになるわけでしで。たぶん自民党総裁選も、五輪が終わるまでは無風なんでしょうな。アメリカ大統領選挙は、五輪閉会後の「シカゴ民主党大会」の「仕込み」をしなきゃいかんでしょうが。
〇新聞のスポーツ欄には人間の偉業が描かれているが、政治欄は愚行が書かれているものであります。どっちを重視すべきかは、言うまでもないじゃないですか。
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編集者敬白
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by Kanbei (Tatsuhiko
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