●かんべえの不規則発言



2019年8月 






<8月15日>(木)

○今日は終戦記念日、ということに昼ごろまで気がつかなかった。今年は8月6日も8月9日も、なんとなく過ぎて行って、いわゆる「8月ジャーナリズム」も例年ほどうるさくないような気がする。まあ、ワシが単にテレビを見ていないだけからかもしれんが。

○これも「令和」になって、それだけ「昭和」が遠ざかったお蔭であろうか。それとも単純に台風10号の余波であろうか。高校野球もお休みになってしまったので、なんだか気が抜けたような8月15日であった。まあ、それはそれで結構なことではないかと思う。

○「戦争の記憶を風化させてはいけない」というのは、反対しにくい正論である。しかしそれってやっぱり無理があるのだ。時間がたてば、人は必ず忘れる。実体験した人もどんどん減っていく。できもしないことを、できる振りをするというのは精神衛生上、よろしくない。特に子供たちに向かって、そういうことを強いてはいけない。

○長い間、この国においては、「あの戦争」(The War)を語ることこそが「戦争を語ること」であって、一般論としての「戦争」(Wars)を語ると軍国主義者扱いされる、という変な風潮があった。だから戦争や安全保障や地政学に関する議論は、専門家がこそこそとやっていた。しかもその大半は戦略ではなくて法律論であった。変な話である。

○時代は変わり、戦争は今ではサイバー空間や宇宙で行われたりする。あるいは「経済戦争」の形をとることもある。いい加減、B29を見たという話で、戦争を語ったことにするのは無理があるだろう。そろそろThe War(あの戦争)と`Wars(戦争全般)を切り離すべきではないのか。

○すいませんね、ワシはいつもこの時期になると、この手の悪態をつきたくなるのである。


<8月16日>(金)

○お盆の間に読んだ『内閣調査室秘録』(志垣民郎&岸俊光/文春新書)についてちょこっとだけ。

○「戦後思想を動かした男」という副題がついていて、帯には「内調は本当に謀略機関だったのか!?」との惹句がついている。とは言っても、そんなに驚くような話は書かれていない。「戦後知識人」が跋扈する時代に、内調がいかに現実派の学者たちを支援していたか、というファクトを内調創設メンバーが書き残したものである。50年代から70年代にかけての学者さんたちが大勢登場し、当時の息吹のようなものが感じられる。

○日本の国は、かつては「政官業鉄のトライアングル」と呼ばれ、「政界は財界に頭が上がらず、財界は官界に牛耳られ、官界は政界に叱りつけられる」という不思議なジャンケンポン体制があった。そんな中で、意外と重要な役割を果たしてきたのが学界でありまして、「この国は意外と学者先生たちが動かしている」てな見方もできたのであります。問題はこの先生方がとても偏っていて、使える人がとても少数であることでありまして。

○内調という組織、ワシも少しだけ知っているけれども、彼らが目をつける「若い学者」は確実に伸びる。どうやってそういう「目利き」になるのかは不案内なるも、そういう例はいっぱい見てきました。謀略をやってたかどうかは知りませんが、「内調って、結構いい仕事してきたじゃん」とあらためて感じましたな。


<8月17日>(土)

うそとほんと


うそはほんとによく似てる
ほんとはうそによく似てる
うそとほんとは
双生児

うそはほんととよくまざる
ほんととうそはよくまざる
うそとほんとは
化合物

うそのなかにうそを探すな
ほんとのなかにうそを探せ
ほんとの中にほんとを探すな
うその中にほんとを探せ


○谷川俊太郎ってすごいですね。だって(↑)これ、1964年の作品ですぜ。フェイクニュースがどうこうという話が、急に古臭いものに思えてきました。


<8月18日>(日)

○以下の話は、誰かに聴いたのか、それとも自分で思い付いたのかわからなくなってしまったアイデアである。とりあえず書いておきますので、後で誰か気づいた人は教えてください。

○世界の人たちは2通りに分かれているのではないだろうか。それは「Anywhereさん」(どこでも君)たちと「Somewhereさん」(ここだけ君)たちである。

○「Anywhereさん」とは、どこでも生きていける人たちのことである。そのためには英語が堪能であったり、しかるべき学歴や職歴があったり、ちゃんとした人たちとコネがあったりする必要があるのだが、ある水準以上になると「どこでもオッケー」になる。こういう人たちは相対的に高い収入を得ていて、デジタル化やハイテク化といったトレンドから利益を得ている。これからの時代は、まさに彼らのものとなるだろう。

○「Somewhreさん」とは、ある一定の地域内でしか生きていけない人たちのことである。以前はそれで何の問題もなかったのだが、最近ではある日突然、外国人のAnywhereさんが上司になったり、以前に期待していたほどには賃金が上がらなくなったりするので、将来に対して不安を抱いている。AIやビッグデータや5Gは、たぶん彼らの将来を暗いものにするであろう。

○溜池通信でいつも取り上げている"The Economist"という雑誌がある。これなどは典型的な「Anywhereさん」御用達の媒体である。「リベラルな国際秩序」を守っていくべきと考えているので、トランプ大統領とかイギリスのEU離脱とかは困ったものだと思っている。とはいうものの、世の中はどんどんそっちの方向に向かうものだから、困ったものだと想いつつ、なぜそんなことになるのかを、全世界のAnywhereさんたちにわかるように説明してくれる。

○とはいえ、Somewhereさんたちにとっては、それは「ふざけんなテメエ!」みたいな話である。彼らは今の世の中に対して、たぶんに自暴自棄になっている。例えばAnywhereさんたちは、人種的、ジェンダー的偏見がないことを誇りとしていて、それを疑われた瞬間に自分は地獄に落ちると思っている。しかし、そんなことはSomewhereさんたちにとっては、まったくどうでもいい、くだらない話である。ふんっ、意識高い系めっ!てな感じである。

○今の香港を見ていると、特にその感を強くする。1997年の香港返還以来、Anywhereさんたちはあらかた海外に逃げてしまった。今も残っているのは、いつでも脱出できるようにパスポートや海外資産を持っている人たちだけである。ところがSomewhereさんたちはそうはいかない。香港に住む730万人のほとんどは、日々「香港らしくなくなっていく香港」に恐怖を抱いている。

○今、香港でデモをしているのはSomewhereさんたちであろう。中国が言っている「一国二制度」も、所詮は50年間限定のことである。2047年以降がどうなるかはわからない。Somewhereさんたちは、そのときもたぶん香港に居るはずである。彼らもその先祖の多くは、大陸本土から逃亡してきた人たちなのであるが。(――そういう意味で、「逃亡犯条例」が問題の発端にあることは象徴的である)。

○逆に現在の香港は、全世界のAnywhereさんたちにとって都合のいい場所である。民主主義はなくても、英国型の透明な司法制度があれば心配はない。インターネットも検閲されていないし、中国本土への快適な交通網もある。だから多国籍企業の多くが、アジアの拠点を香港に置いている。彼らは今の香港の騒乱を冷ややかに見ている。まあ、何かあったら逃げ出せばいいや。だってAnywhereさんなんだから、それこそシンガポールでも東京でもいいのである。

○ところがSomewhereさんたちはそうはいかない。だから彼らの抵抗はどんどんやけっぱちなものになっていく。こうなると、押さえつけなければならない北京は大変ですな。その中国の中でも、Anywhereさんたちはその膨大なマネーとともに逃げ腰になってるし。だから人民元が対ドルで7元を割り込むわけですし。どうかすると中国共産党幹部も、ご家族はAnywhereさんだったりするし。

○その点、日本はAnywhereさん比率が変に低い国なので、わりと安心していられるのですな。まあ、自慢するような話ではないのですが。


<8月19日>(月)

○本日は熊本県町村会の研修会の講師で熊本市へ。2015年秋に来て以来ですな。

○2016年春の熊本地震からようやく復興が進み、今は熊本城の天守閣も復活しているとのこと。石垣の整備がまだだという話も聞きましたが、今年10月から特別公開とのことです。だったらちゃんと見に行けばよかったのですが、最近はそういうことが億劫になっていて、どうもいかんですな。

○熊本空港は来年、コンセッションになるとのこと。三井不動産などが優先交渉権を得て、九州電力や九州産業交通【バス会社】、テレビ熊本など地元資本がコンソーシアムを組むのだという。まあ、その辺は普通だわなあ、と思って説明を聞いていたら、「そういえば双日も入っていたんじゃないんですか?」と。汗顔の至りである(知らんかった・・・)。

○てなことで、今回は日帰りの熊本出張。行きも帰りも飛行機が遅れたというのは、最近ではちょっと珍しいと思うが、これは天気のせいなのかお盆のせいなのか。ちなみに行きがANAで帰りはJALだったので、ここは両社痛み分けということであります。


<8月20日>(火)

○今からちょうど20年前に、この溜池通信サイトがニフティ上に誕生した。しかしながら、そのサービスはもう残ってはいないし、実を言うとワシ自身の記憶も曖昧なのである。ホントだったら、何かお祝いをすべきところなのかもしれないが、まあいいか、ということで何もせず。

○それとはまったく無関係に、この日の夜はやまげんさんやら編集F氏など競馬ファンの集まりへ。本職の競馬評論家や競馬雑誌の編集者、一口馬主の達人H氏などが参集。いやもう、語るかたる。この場に上海馬券王先生が居ないことが惜しまれる。

○試しに各人が、競馬情報を主に何から入手しているか、を尋ねてみると、皆さんきれいに意見が分かれた。「東スポ」「スポニチ」「日刊ゲンダイ」「日刊スポーツ」「優馬」「ネット競馬」「JRAレーシングビュアー」などなど。「長らく見慣れたものがいちばん使いやすい」というのがコンセンサスであった。情報収集と分析、予測という仕事において、これは鉄則ではないかと考える次第である。

○当溜池通信も、かな〜り長い間、読んでくれている読者がいらっしゃるようで、その点は競馬新聞と同じようでありたいものである。


<8月21日>(水)

○朝は「モーサテ」へ。朝イチで飛び込んできたニュースが、「イタリアの首相が辞める」という話である。おいおい、それじゃ今週末のG7サミットはどうするんだよ、と思うが、何しろ連立与党の一角から不信任案が出されるという次第なので、もうそんなことは言っていられない!ということらしい。

○そもそも今のイタリア政治は、既存の2大政党が没落して、極右と極左のポピュリスト政党が連立を組んでいるようなもの。「よくまあ1年間も続きましたねえ」と言ってあげるのが自然かもしれない。たとえて言えば、れいわ新選組から出ている首相に対し、連立相手のN国が不信任案をつきつける、という図式なので、これはもう混乱の極みである。

○それで当然、株は売られるわけだが、債券は買われて金利が低下している。おいおい、普通はこういう時はイタリア国債が売られて、金利は上昇するのが普通であろう。ということで、「いったいどうなってるんだ?」「どう説明すればいいんだ?」などと放送開始直前まで、東京とニューヨークとの間でやり取りしている。こういうことがあるから、ニュースの現場は面白い。

「モーサテ」もまた長いことやっている。安定した情報源となるべく、日々是努力あるのみ。














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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)